黒髪町の静かな山の中。ここに、知る人ぞ知る、佐世保屈指の有名な場所があります。かくいう私も「あの辺りにある」という話は何度も耳にしておりましたが、お伺いするのは今回が初めて。とても興味がある場所だったので、ワクワクしながらお邪魔させていただきました。
そこは中山養魚場。錦鯉の生産・販売をされる場所です。ニコニコと気さくに出迎えてくださったのは、オーナーの中山正義さん67歳。中山養魚場の歴史は13年目ですが、中山さん自身はこの道なんと48年目。人生のほとんどを鯉と共に過ごしてこられたようです。
小さいときから鯉が好き
ーーこのお仕事を始められるきっかけはなんだったんでしょうか?
小さいときからなんか好きだったんですよね。親父も好きでしたから。子供のころから一緒に買いに行ったりして、世話をするのも好きでした。なので高校出たら、長崎大学・水産学部に行こうと思ってたんですけど、勉強よりも鯉の世話に明け暮れすぎて、一年浪人することになりました。その年は予備校に通ったのですが、遊び仲間がいたこともあって、また浪人。二年目は宅浪して、図書館に通っていました。でも当時、図書館の近くに卓球やスマートボールができる場所があったんですよ。で、結局遊んでばかり。当時はものすごくモテたんですよ。遊び仲間みんながカワイイと言っていた喫茶店の女の子から声かけられたり、図書館で高校生の女の子から手紙渡されたり。
ーーおモテになるのは、なんとなく分かります(笑)それで大学には?
もちろんダメで。そこでどうしよう…と。さすがに親にもう迷惑かけられないので、働かんばねと思ったときに、子供のころから親父と行ってた「小川養魚場」に電話したんです。かける前にはだいぶ躊躇したんですよ。断られるかもしれないし、自分の人生がここで決まるかも知れないし。でもいざ電話してみると「来たらよかたい。明日からこんね」と。次の日から、母親が作ってくれた弁当を持って早速仕事に行くようになりました。それが20歳の頃。47年前の話です。
ーー実際お仕事されてどうでした?
朝から夕方まで働きましたよ。年間の休みは20日くらい。当時は鯉を飼う人も多かったし、正月の初売りもにぎわいましたね。自分が『楼蘭(ローラン)』と名付けた鯉は、東京の品評会で、大会50年の歴史の中で初めて、総合優勝を2回したんですよ。中国に養殖の技術を教えに行ったこともありますし、イギリスやシンガポール、マレーシアやアメリカなど、品評会の審査などで、海外へもだいぶ行きました。
鯉の魅力
ーー世界でも愛される鯉ですが、いい鯉の条件ってなんですか?
よく聞かれるんですけど、究極をいえば「好み」ですね。もちろん品評会では模様、体形、質などいろんな規定がありますけど、時代によって流行りもあるし、ある程度大きくならないと分からないこともあります。うちに毎年、90歳ぐらいの方が軽トラに乗って買いに来られるんですが、その方なんかはすごく上手です。パッパッパっと選んで行って、それがいい鯉になる。目利きだな~と感心してますよ。
ーーほかに、どのような方が買いに来られるんですか?
ここに来られるのは、一般の愛好家さんです。この前は大学生が買いに来てくれて、その後の世話でも相談に乗ってますよ。
歌手の前川清さんとはもうずいぶん長い付き合いですしね。前川さんの鯉はうちでお世話していて、前川さん自身、毎年ため池から鯉をあげる「池上げ」の時には必ず来てますよ。その様子はYouTubeにもあがってますけど、それ以外でもしょっちゅう食事にも行きますし、もう仲間ですね。
ということで、その時の様子がこちら。
0.8%の選ばれしもの
この時期、もちろんため池だけではなく、ここ黒髪町の中山養魚場にも販売用の鯉たちが育てられています。鯉は産卵から約40日目、体長が2~3cmの頃、1回目の選別が行われます。例えばそれが5万匹だった場合、残るのは約2千匹。その後2回目で約800匹、3回目で約400匹と、最終的には1%にも満たない鯉たちが残り、育てられているとのこと。
そんな1年目と2年目の精鋭たちがいるハウスの中に案内していただきました。
ここにいる鯉たちの販売価格は1,000円~。鯉を購入したことがなかったので、意外に手ごろな価格なんだなと感じました。鯉=ウン百万円の値が付くイメージがありましたし、数年前には2億円を超える金額で落札された鯉のことが話題にもなりました。それほど、高額なお金を出してでも、良い鯉が欲しいという方が世の中にはいらっしゃるということですが、ここには、ある意味それ以上の価値がある鯉がいました。
中山さん曰く「絶対売らない」、つまりプライスレスな鯉です。それほど中山さんが気に入られたのがこちらの2匹。
素人目にもとても美しい鯉ですが、何百匹と泳ぐ中からピンポイントですくい上げられる様はさすがです。成長とともに模様も変わっていくとのことですから、これから先が楽しみだという気持ちが、私にも少し分かった気がします。
このハウスには販売用のほか、預かって育てられている鯉や、中山さんお気に入りの鯉もいて、中には
1メートル近くもある巨大な鯉も!まさにコイキング。そして…
なんとネコちゃんまで。実はハウスの周りには
こんなに沢山のネコちゃんたちがいて
取材中の中山さんの足元にも、ずっとネコちゃんがいました。鯉だけならぬ、ネコちゃんのお世話までされているとは、中山さんは本当に優しい方なのですね。
ひと昔前は、家を建てたら庭に鯉が泳ぐ池を…と望む方がたくさんいらっしゃいましたが、住宅事情も変わり、愛好家たちの平均年齢もあがってきているそう。今のところ、この仕事を継ぐ方はいらっしゃらないそうですが、世界中に愛好家がいる日本の文化・錦鯉の世界を、これからもここ佐世保から発信し続けていただきたいなと思います。水槽でも飼えないことはないそうですが、やはり鯉は上から見て美しい魚なんだそう。
お庭に鯉が泳ぐ池、あらためてみなさまも考えてみてはいかが?
中山養魚場
佐世保市黒髪町2796
090-4989-9560
8:00~18:00 年中無休